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 2017/3/2
【最後の浮世絵「新版画」の魅力】

 6月14日(水)まで今泉記念館アートステーションにて企画展「浮世絵から新版画までの軌跡展」が開催されます。

 本展での浮世絵とは、木版画による浮世絵版画のことを指します。一般的に浮世絵といえば、江戸時代から明治時代に日本で制作された木版画を指すことが多く、有名な葛飾北斎『冨嶽三十六景』、歌川広重『東海道五拾三之内』は浮世絵の一つ、名所絵になりますがこちらも浮世絵版画になります。
 浮世絵は木版画以外にもあり、例えば直接紙に描いた一点物の作品は肉筆浮世絵となります。このように浮世絵にも色々ありますが、浮世絵の”浮世”とは元々は「現代風な」「当世風な」といった意味を持っており、浮世絵で描かれるテーマはその時代の暮らし、風俗、流行などが基本となります。要するに浮世絵とは、当代の風俗に関して描く風俗画を指します。

 一方、新版画とは江戸時代の浮世絵を復興させようと版元である渡邉庄三郎を中心に、大正から昭和時代にかけ発展した木版画です。従来の浮世絵版画と同様に、絵師・彫師・摺師による専門的分業制作を生かしながらも、時代に合った芸術を生み出そうと新たな技法を用いて、精緻で美麗な完成度の高い作品が数多く生み出されました。

 渡邊と組み木版画を早くから制作していた伊東深水、そして伊東深水の木版画に影響を受けて洋画家から版画家になった川瀬巴水、渡邊に迎えられた吉田博らの活躍によって新版画が確立されました。

 新版画は「浮世絵のリバイバル」として海外、特に米国において衝撃をもって受け入れられ、当初は輸出用に数多く制作されました。マッカーサーや精神分析学者のフロイトらが新版画を入手していたと言われています。最近でも、スティーブ・ジョブズやダイアナ妃といった著名人が、新版画の愛好家として知られています。

 海外で一大ムーブメントを起こした新版画ですが、その魅力の一つに、木版画とは思えない程の写実性と、色彩の豊かさがあります。例えば、江戸時代の木版画に比べると吉田博や川瀬巴水は、摺りの回数が圧倒的に多く、海外の人たちに水彩画と間違えられることも。
 また、吉田博の特徴である多色摺りは、何枚もの版を使用し何回も摺り重ねることにより立体感を表現し、同じ版木を用い、色を替えて摺ることによって時間や気候の変化を表現した同版色替の技法は、西洋の印象派を連想させます。
 川瀬巴水も同じ色を何度も重ねることで色に深みを出し、摺り跡を残すざら摺りなど、新しい表現方法を開拓していきます。

 このように西洋画を感じさせる新版画ですが、実は新版画家の多くは日本画の鏑木清方の弟子です。鏑木清方の系譜を辿っていくと、江戸時代の浮世絵師・歌川国芳に行き当たります。
 「最後の浮世絵」と言われた新版画は、日本の伝統的な浮世絵版画の高い技術を受け継ぎながらも、西洋画の視点を取り入れた「新しい木版画」です。「日本と西洋の融合」とも言える新版画と、そのルーツである浮世絵。

 本展では有名な広重、国芳の浮世絵や、新版画の中心的画家だった伊東深水、吉田博、川瀬巴水の作品を展示致します。世界に誇る優れた日本美術を、ぜひご覧ください。

 
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